MaaSの現状と今後の動き

モビリティピッチは、MaaS (Mobility as a Service) に真剣に取り組む方のための情報共有イベントです。
小田急電鉄とヴァル研究所が共催し、MaaSの実務者が語る正しい情報や具体的な状況、課題の共有と、気づきを与えあえる場・コミュニティ作りを目指します。

第1回目では、2021年4月13日に「MaaSの現状と今後の動き」と題してMaaSの専門家である3名に講演いただきました。
モデレーターは小田急グループの次世代モビリティチームのリーダーでもある西村 潤也さんです。

おひとり15分という短い中で、濃縮したさまざまな情報や事例を共有いただきました。
この開催レポートでは、いくつかのトピックスを抜粋してご紹介します。

※実際のセミナーでは詳細なデータ等もご紹介いただきましたが、本レポートでは割愛している箇所がございます。

プログラム

※講演者のご所属、お役職は2021年4月時点のものです。

講演1
MaaS~モビリティ革命~ 移動・都市の未来への展望

MaaS~モビリティ革命~ 移動・都市の未来への展望

株式会社MaaS Tech Japan 代表取締役 日高 洋祐さんより、「MaaS~モビリティ革命~ 移動・都市の未来への展望」をテーマに講演いただきました。

株式会社MaaS Tech Japan 代表取締役 日高 洋祐さん

Icon list red MaaS(Mobillity as a Service)とは何か

まずはじめに、MaaSの基本概念についてご説明いただきました。
MaaSとは、実際には分割されたさまざまなモビリティサービスを、仮想的にひとつのサービスとみなす概念です。

各モビリティサービスの特徴と連携のメリット

既存の鉄道やバス、タクシー、マイカーから最近広がりつつあるカーシェア、シェアサイクル、デマンドバスなど、それぞれが持つ特色や制約をうまくつなぎあわせ、利用者に新しい価値観やライフスタイルを提供することがMaaSの役割といえます。

Mobility as a Service

MaaSの歴史にはいくつかのポイントがあり、そのはじめはフィンランド・MaaS Global社の「Whim」アプリの登場です。経路検索やチケット購入を可能とし、さらに定額制での“公共交通+タクシー乗り放題”として生活者の行動変容を起こしました。

また、国内においてはCES2018にてトヨタ自動車株式会社・豊田社長の「モビリティ・カンパニー」への転換宣言や、未来の実証都市の発表も記憶に新しい出来事です。 モビリティからMaaSへ、MaaSからさらなる連携、都市構想へと広がりをみせています。

Icon list red Beyond MaaS 、Smart Cityへ

MaaSにおける定額制・サブスクリプションモデルや、モビリティと異業種の連携によって生まれる新たな価値・産業、いわゆる“Beyond MaaS” についても事例をもとに解説いただきました。

通信においては、通信量が従量制から定額制へと変わり、利用者のコスト感が減ったことによりGAFAなどさまざまな産業が誕生してきました。

交通においても、交通に関する利用者のコスト感を減らし、MaaSがインフラとして成り立った時に、それを活用して新たな価値や産業を生み出すことができると考えられ、これを“Beyond MaaS”と捉えます。

Maas(subscriotionモデル)の理解とBeyondMaas(クロスセクター効果)

定額制の実例として、株式会社ジェイアール東日本企画の調査結果をご紹介いただきました。
株式会社ジェイアール東日本企画のニュースリリース(2019年8月28日付)

交通機関の定額乗り放題を想定した調査によると、交通費の負担を軽減することで、行き先が定期券区間内になりがちな利用者の移動頻度や行動範囲を広げることができ、さらに消費体験や消費金額が増える可能性が示唆されています。

類似に、エストニアの首都タリンにおいて、公共交通の無料化により市民の購買行動に変容をお越し、中心市街地を活性化させたという実例も発表されています。

MaasからBeyond Maas、Smart Cityへ
日高さん MaaSやモビリティをきっかけとして、その先の異業種、移動の目的(通勤やレジャー、通院、日常生活など)との連携が進むのが自然な流れだと思います。 また、さらに先のスマートシティ、スーパーシティの実現に向けても連携し、より便利な世の中を実現できるよう、みなさんとともに協力していきたいと考えています

Q&A

日高さんとモデレーターの西村さんのQ&Aをいくつかご紹介します。

MaaSとは多様なモビリティサービスをひとつにつなぎ合わせるといった表現をされますが、一方ですでにタクシー配車アプリやカーシェアなどのモビリティサービスで、それぞれのユーザー接点、アプリやWebサイトがあります。
それらを1つにつなぎ合わせるのか、ユーザー側が選択するのか、何かアドバイスがあればいただきたいです

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西村さん
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日高さん

網羅性のものと単独サービスの価値は、両立するところだと思います。
MaaSがあるからといって、単独のサービスがいらないということではなく、単独のサービスであっても使いやすい状態で、ただユーザーや都市にとってそれらが統合されていた方が望ましいなどさまざまなケースやニーズがあると思います。

『つなげるべき』か『つなげないべき』かというよりは、基本的につなげられる状態を作っておくこと。つなげた方がユーザーにとって価値がある場合は、自然とユーザーはつなげる方を選ぶはずなので、つなげる準備をしておいた方が良いと思います。 また、何でもかんでもつなげればいいというものでもないので、つなげ方は非常にテクニックが必要だと思っています

最後のお話にあった“MaaSからBeyond MaaS、Smart Cityへ”のお話について、Howの議論はよくあるのですが、「じゃあ誰がするの?」というところで、交通事業者以外で期待されるプレイヤーというものがございましたら、メッセージも込めて教えていただけますでしょうか

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西村さん
Icon mtj hidaka
日高さん

交通など特定領域に詳しくなってしまうと、そこから脱却するのが難しくなると思います。
このため、事業開発をしたことがあるとか、何かテクノロジーを持っているといった、第三者的なプレイヤーが、『こんなことができるのではないか』と何かひとつソリューションやビジネススキームを持ってMaaSの世界に入ってくる方が自然なのではと思います。
例えば何かのメディアを運営されていて、その業界に詳しい方が交通事業者とその業界をつなげてBizDev(事業開発)するなど。
医療×MaaSであれば、医療とMaaSとさらにITに詳しい別のプレイヤーを入れて三者で連携すると良いのではと思っています

講演2
コロナ禍のMaaS戦略

コロナ禍のMaaS戦略

一般財団法人 計量計画研究所 理事 兼 研究本部企画戦略部長 牧村 和彦さんから、「コロナ禍のMaaS戦略」をテーマに、コロナ禍のMaaS戦略や持続可能な新モビリティ社会実現に向けて抑えておくべきポイントについて講演いただきました。

牧村和彦博士(工学)東京大学

Icon list red MaaSの本質とコロナ禍のMaaS戦略

前提として、牧村さんの考えるMaaSの本質についてご説明いただきました。
MaaSの本質は、交通産業全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)であり、「100年の歴史がある自動車という伝統的な交通手段に加えて、もうひとつまったく新しい選択肢を提供していくこと」が本質の裏にあるとのこと。

また、大事なポイントは、新しい価値観や新しいライフスタイル、持続可能な社会を作りながら、“ポケットの中に全ての交通がある”という世界観を目指すこと。また、さまざまなモビリティをどのようにうまく連携していくか、公共交通の再定義を議論していくことだと言います。

コロナ禍のMaaS戦略

今、このコロナ禍のなかで、さまざまなサービスが登場しています。
スライドにあるように、ヒトとモノのマッチングや、固定と非固定を組み合わせたモビリティサービス、時間や空間などの不足したサービスと交通をうまく連携させたサービス、感染を回避するナビゲーションなど、多岐に渡ります。

なかでもプライシング(価格設定)による時間と空間の需給調整や、ビッグデータを用いた増便などの対応はMaaSに期待されているところで、大きな柱になっていくと述べられました。

安心、安全な移動を支援するDXが加速

この事例として、台湾の高雄市で始まったMaaSアプリ「Men-GO」をご紹介いただきました。
コロナ禍における公共交通の利用需要回復に向け、定額料金(使い放題)を最大50%オフにディスカウントすることで、バス利用者が30%減少の中で、「Men-GO」利用者は10%の増加がみられた事例です。

台湾に学べ。コロナ時代のモビリティ作戦会議(NewsPicks)

また、日本においても、この1、2年で全国各地で小売りや観光、不動産などさまざまなサービスと連携したMaaSが本格的に稼働しています。
例えば小田急電鉄の「EMot」、トヨタ自動車の「my route」、JR東日本の「Ringo Pass」、東急の「Izuko」など、ニューノーマル時代に対応したサービスが続々と登場しています。

Icon list red 持続可能な新モビリティ社会実現に向けて

続いて、これから持続可能なモビリティ社会をどのように考えていくかというなかで、次の6つのポイントを解説いただきました。

持続可能な新モビリティ社会に向けて

このなかで、ビジョンの共有や官民連携の事例として、静岡の実証実験アプリ「しずてつ MapS!」をご紹介いただきました。これには牧村さんも携わられており、協議会に地域の方やサービス提供事業者が参画し、さまざまな利害関係を調整しながら実証やMaaSのビジョン作りを進めていると言います。

海外では、アメリカのダラス高速運輸公社が2014年から2030年までの長期的なMaaS戦略を立てています。
日本でも、1年2年の短期的な結果ではなく、20年30年のスパンでMaaSやこれからの社会を考えていくことが求められています。

MaaSの本質

ひるがえって、MaaSの本質、根幹はサービスの統合だけではなく、交通産業のDXであると説明いただきました。

そのトライアル例として、ロサンゼルスのMOD(Mobility Demand)でのデマンドサービスと鉄道を組み合わせた「配車&ライド」の実証結果を共有いただきました。
これは政府主導のMODプロジェクトで、日本でいうとデマンドモビリティと鉄道を組み合わせて移動を支援するといった実証実験です。
利用者の行動変容、サービスの受け入れには半年から年単位の時間がかかることが示唆されました。

ほか、ベルリンのデータ駆動による都市経営、ドイツ・ハノーバーの「Mobility shop」、ウィーンの「WienMobil」、ロンドンの24時間バス専用レーンなどもご紹介いただきました。

MaaSの定額制の種類
牧村さん こうしたさまざまなアイデア、サービスを組み合わせてMaaSを浸透させていくのがこれから大事になるのではと思っています

Q&A

牧村さんとモデレーターの西村さんのQ&Aをご紹介します。

都市経営をモビリティの側面でどうしていくのかというところは、非常に難しい局面でもありますし、これからある程度峻別されていくものだと思います。
そんななかで、静岡の事例は人が主体的に、人中心的になっていたのが印象的で、こういったところが今後のポイントになるのではと感じました。

日本の交通事業者や自治体に向けて、一定の行動変容を起こすための、サブスクでいうとインセンティブのような、何か行動変容の要素でヒントになるようなものがあれば詳しく教えていただきたいです」

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西村さん
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牧村さん

例えばバスについて、普段はマイカーに乗っていたり、小さい頃は乗っていたけれどいまは利用していない場合、運賃の支払の方法も所要時間もわからないということもあります。
こういった細かな部分からでも、相手の価値観(環境、お金、時間、安全など何に重きを置くか)にあわせてきちっと情報提供して、行政や民間が選択肢をしっかりと提示することが大事だと思います。

レストランでメニューを開いて置いておくかのような、まずは選択肢を、地域や民間がどんなサービスをおこなっているのかを『知ってもらう』ことだと思います。
自分が車を運転できなくなってはじめて地域の実情を知る、といったことから、早く脱却していかなければいけない。

そういう意味での行動変容というのが本質的にあるんじゃないかなと。そのひとつの突破口がMaaSというデジタルのところであると期待しています。

このために、バス事業者や自動車メーカー、鉄道事業者などそれぞれが相互に情報をシェアして協力していくというのが大事だと思っています

講演3
日本版MaaSの取組と今後

日本版MaaSの取組と今後

国土交通省 総合政策局 モビリティサービス推進課 企画官 土田 宏道さんから、MaaSについて、国としてどのような考え方をもってこれまで取り組んできたか、直近でどのような施策を具体的にやってきたか、また、今後の展開について講演いただきました。

Icon list red 日本版MaaSの推進

まず前提として、MaaSにはさまざまな考え方、捉え方がありますが、国土交通省では公共交通にフォーカスを当てつつ取り組まれているとのこと。

公共交通政策の変遷

日本の公共交通は民営化により発展し、地域毎に切磋琢磨してサービスレベルを上げてきたという歴史がありますが、近年は成長の鈍化・円熟化により“競争”から“協調”に舵を切られていると言います。
2007年から、法律上でも交通モードを横断して取り組んでいくという動きが見て取れます。
この延長として、技術革新により実現可能となった新しいモビリティサービスやMaaSが位置づけられていると言います。

また、2019年3月には「新たなモビリティサービス懇談会」にて、新たなモビリティサービスの方向性について、大きく4つの項目を立てられました。
現在国土交通省で行われている施策も、その懇談会で上がった観点に添いながら進められています。

新たなモビリティサービス懇談会:中間取りまとめ(2019.3)

土田さん曰く、この日本版MaaSの考え方は第一部第二部講演の日高さん、牧村さんがお話しされていた“Beyond MaaS”に近いイメージとのこと。

各公共交通事業者が、交通事業に加え、沿線での不動産や小売、観光などさまざまな事業を展開している現状を生かして、さらに目的地におけるサービスと交通を深くデータ連携し、MaaSという形で活かしていくのが良いのではとの見解を述べられました。

MaaS関連データ

移動のために移動するのではなく、なにかをするために移動をする。その”なにかをする”という部分にもフォーカスを当てていくこと。それをas a Serviceとして取り込んで、提供していくこと、移動環境を提供していくことが、地域課題の解決・活性化へとつなげていくことができるのではないか、とお話しいただきました。

Icon list red 日本版MaaSの基盤形成

国土交通省では、MaaSの基盤形成としてオンデマンド交通やキャッシュレス決済の導入などに取り組む事業者を支援しています。

日本版MaaSの基盤形成

このコロナ禍では、密を避けるという観点でシェアサイクルやカーシェアなど新しいモビリティへのニーズが増えており、従来の“時間通り・安い・乗換が少ない”といった価値観から、“安心・3密回避”へとアップデートされています。この変化に関しても、MaaSとして対応することが可能です。

この一環として、新たにバス車内の「リアルタイム混雑情報提供システムのガイドライン」が発表されました。

リアルタイム混雑情報提供システムのガイドライン

また、より公共的・行政的な観点でのMaaS活用として、バリアフリー施策について紹介いただきました。

MaaSのバリアフリー施策への活用2

例えば筆談のツールや手話通訳の方といったソフト面、点字ブロックやホームドアなどのハード面など、各交通事業者が積極的にバリアフリー対応をしている一方で、実際の利用者には欲しいタイミングで欲しい情報をうまく伝わっていないという現状もあります。
これに対して、MaaSという手段で利用者個々のニーズに応じて情報案内ができる、と述べられました。

Icon list red 令和3年度の日本版MaaSについて

日本版MaaS推進・支援事業
土田さん

プロジェクト支援と個別の基盤整備支援の両輪を実施したいと考えています。
3年目となるため、より先進的な、他の地域のモデルとなるような取り組みに対して支援していきたいと考えています。

MaaSの理想形に近づけるには、シームレスなどまだまだ改善の余地があると思っています。
また、さまざまな静的・動的なデータが溜まってきているので、それをどう利活用すれば良いかをもっと深堀りして、人々のポジティブな行動変容を起こす仕組みづくりやサービス提供を続けていくことで、MaaS自体の付加価値や、地域活性化につながると思っています。

今年度もMaaSの推進・支援事業を行っていきますので、何かお困りごとがあれば、モビリティサービス推進課にお問い合わせください

Q&A

土田さんとモデレーターの西村さんのQ&Aをいくつかご紹介します。

プライベートセクターである民間事業者間の競争であったり、鉄道とバスの競争であったり、タクシーの競争であったりというところが、協調に時代が変化しているというというのは、私自身も肌で感じている状況です。

令和3年度のモビリティサービス推進課で進められる施策の中で、こういうところを期待しているとか、ここが今まで足りなかったんじゃないかというところがあれば教えていただけますか

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西村さん
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土田さん

これまでの取り組みで足りないというか、MaaSの理想形からすると改善する余地が大きいかなと思うのは、シームレス、キャッシュレス、ゲート(改札)、チケッティングあたりでしょうか。
チケッティングや改札がより便利になるといいのかなというところと、データの観点では動的な部分(リアルタイムデータ)の利活用をもっと進めたいですね。
その結果として、人々の行動変容がもっと引き起こされるといいなと思っています

参加者アンケートより

モビリティピッチ 第1回では、当初想定していた定員500名を超える約700名の方にご参加いただきました。アンケートでいただいた感想を一部ご紹介します。

非常に分かりやすく、勉強になりました。日々生活をする中で、MaaSの世界を想像しづらかったのですが、目指す世界観が理解できました。ありがとうございました

交通事業者の方

ご講演ありがとうございました。大変勉強になりました。競争から共創という状況にどのように転換していくのか、その際のハードルをどう解決したのか等、先行して取り組まれている方々のお話を楽しみにしております。引き続きよろしくお願い致します

建設コンサルタントの方

MaaSの現状や方向性について、短時間で大変よくまとめてお話しいただき、頭の整理と勉強になりました。ありがとうございました

交通事業者の方

MaaSに関して、日高先生の基礎から全体像概論、牧村先生の詳説、土田先生の国施策解説まで、非常にバランスの取れた内容だったと感じました。大変参考になりました

建設コンサルタントの方

今回、ご講話を伺っている中で、各サービスを連携し集約はするものの、ユーザーが選択できる選択肢を残して置くことが大切だという点が、事業者よがりではなくユーザー目線において大切だという事を強く感じました。社会・ユーザー・企業全てにとって良いプラットフォームを作っていきたいと思います

交通事業者の方

最後に

改めまして、参加者の皆様、ご講演くださった日高様、牧村様、土田様、そして進行くださった西村様に深くお礼申し上げます。誠にありがとうございました!

モビリティピッチは今後もモビリティに関わる実務者の方々からのよりリアルな状況をお話しいただき、気づきを与えあえるコミュニティ作りを目指します。

2021年度は春・夏・秋・冬のシーズンごとにウェブセミナー形式で開催します。

夏シーズンは第4回・マイクロモビリティの展開、第5回・自動運転の未来と題してそれぞれの領域の実務者にご登壇いただきます。
皆さまのご参加をお待ちしております!

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